炎の呼吸を聴く夜。FEUERHAND ベイビースペシャルが照らす心の奥底

炎の呼吸を聴く夜。FEUERHAND ベイビースペシャルが照らす心の奥底
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夜の森は、人間の視覚を容赦なく奪う。
太陽が沈み、黒い影が木々を覆い尽くすと、僕たちは突然、世界から切り離されたような孤独に直面する。
LEDのヘッドライトを点ければ、周囲は昼間のように明るくなる。
しかし、その白く直線的な光は、夜の闇を「殺す」だけであり、決して僕の心を温めてはくれない。

僕はバックパックから、古びた金属のランタンを取り出す。

FEUERHAND (フュアーハンド) ベイビースペシャル 276

100年以上前から変わらない構造を持つ、ドイツ製のハリケーンランタンだ。
レバーを押し下げ、ガラスのホヤを持ち上げる。
マッチを擦り、灯油を吸い上げた平たい芯に火を移す。
チロチョロとした頼りない火が灯ったのを確認し、ゆっくりとガラスを下ろす。

――ぽわん。

ガラスの中で、小さなオレンジ色の炎が育ち始める。
周囲をパッと明るくするような力はない。足元の石ころと、自分の手元をぼんやりと照らすのがやっとの、ひ弱な光だ。
しかし、その光は「呼吸」をしている。

風が吹くたびに、ガラスの中の炎はゆらゆらと揺れる。
ランタンの特許構造である二重管を空気が巡り、炎に酸素を供給する。
その微かな気流の音が、耳をすませば「シュゥゥゥ」と低く聞こえてくる。
それは、間違いなく命の音だった。

僕は、ただ……その揺れる小さな光を、何時間も無言で見つめ続ける。

なぜ、こんなにも心が揺れるのか。
なぜ、不便で、暗くて、煤の匂いがするこの古い道具を、僕は愛してやまないのか。
炎を見つめていると、心の奥底に沈殿していた澱(おり)のような感情が、ゆっくりと浮上してくるのを感じる。
楽しかった記憶、後悔、誰かに言えなかった言葉。
LEDの強烈な光の下では決して姿を現さない、弱くて柔らかい感情の欠片たち。

この小さな炎は、僕の心の闇を照らし出す鏡だ。
大きく燃え上がれば心が乱れている証拠であり、静かに灯っていれば、僕もまた静寂の中にある。
炎は揺れる。僕の心も揺れる。
その同期が、孤独な夜の森において、どれほどの慰めになることか。

ブリキのボディは熱を持ち、冷たい夜気に触れてかすかに結露している。
僕はその温かい金属の傘にそっと手を触れる。
生きている。
このランタンは、灯油という血を吸い、酸素を呼吸し、熱という命を燃やしている。

夜が更けていく。
炎は少しも小さくなることなく、ただ粛々と燃え続けている。
僕の心の中の言葉にならない重さも、この炎が少しずつ、灰にして空へと還してくれているような気がした。

消したくない。
けれど、いつかは眠らなければならない。

僕はレバーを少し上げ、息を吹きかけた。
フッ。
一瞬で光は消え、完全な闇が戻ってきた。
けれど、目の奥にはまだ、あのオレンジ色の残像が、温かく焼き付いていた。

森で会おう。


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