記憶を焚き付ける。Hults Bruk(ハルタホース)の斧と、薪の呼吸。

薪を割る。単純作業の向こう側にある瞑想。
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薪を一振りで割るたびに、木が内包していた「時間」が、匂いとなって爆発する。

冬の空気が肺を刺す朝。僕の目の前には、太い広葉樹の玉切り(丸太)が転がっている。樹皮は硬く乾燥し、表面には年輪が刻まれている。数十回、あるいは百回以上の冬を越え、光を浴び、風に耐えてきた記録の層。
薪を割るということは、単に木材を燃やしやすいサイズに分割する物理的な作業ではない。それは、この木が何十年もかけて大地から吸い上げ、硬く封じ込めてきた「記憶」のアーカイブを、無理やりこじ開ける行為だ。

僕は、足元に置いた鈍色の相棒を拾い上げた。

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鋼とヒッコリーの必然性

Hultafors(ハルタホース)のスカウト。スウェーデン製の伝統的な手斧だ。

手斧としてはやや重い。だが、そのヘッドの質量こそが、硬い繊維を断ち切る絶対的な力となる。柄はアメリカンヒッコリー。強靭でありながら、打撃の瞬間の恐ろしいほどの衝撃を、木の繊維がしなることで吸収し、僕の腕へのダメージを逃がしてくれる。

プラスチックやグラスファイバーの柄は、腐らないし折れないかもしれない。しかし、僕は木製の柄でなければ駄目だった。
手汗を吸い、泥に汚れ、長年握り込むことで手の形に変形していく。オイルを塗り込み、育てていく。それは道具というより、僕の手の延長であり、生きた「皮膚」のようなものだ。鋼の冷たさと、木の温かさ。その二つを組み合わせた人類の知恵の結晶が、ここにある。

僕は、玉切りの中心を見据え、斧を振り上げた。

暴力と調和の狭間で

カンッ、と鋭い音が森に響く。
狙いが外れ、斧の刃が反発した。手が痺れる。木は、そう簡単には自身の記憶を明け渡そうとしない。

力任せに振っても駄目なのだ。「切る」のではない。「割る」のだ。
木の繊維がどのように走っているか。どこにナイフのような刃を入れれば、最も抵抗なく左右に引き裂けるか。木の声を聴き、その構造を理解しなければ、人間のもつわずかな腕力など、大木の繊維の前では無力に等しい。

呼吸を整える。足を開き、重心を落とす。手首の力は抜き、斧自身の「重さ」にすべてを委ねるように、ヘッドの軌道を誘導するだけだ。

パァンッ、という乾いた破裂音。

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見事に繊維の隙間を捉えた斧は、玉切りを真っ二つに割った。白く、瑞々しい木肌が露出する。その瞬間、何十年も封じ込められていた甘く、切なく、そして力強い樹液の匂いが、冬の冷たい空気の中に一気に放たれた。

この重さが、僕を地面に留める。

もう一度、その重さを感じる。斧を振り下ろす行為の連続。それは単調な苦役ではない。一定のリズムで繰り返される打撃音と、薪が割れる感触。雑念は消え、脳内には「刃の角度」と「重力の落下」という物理法則だけが存在するようになる。
額に汗が滲む。腹の底から、原始的な喜びが湧き上がってくるのを感じる。僕は、この破壊という暴力的な行為を通じて、木の内側にある静かな命と、深く調和していくのだ。

重さは、重力じゃない。それは、僕が今、無心で何かと向き合っているという、存在の証明だ。

足元には、燃やされるのを待つ真新しい薪が山のようになっている。割られた木肌は、これから炎に包まれ、その内なる熱を僕たちに分け与え、最後は白い灰となって森へ還る。そのサイクルの中の「破壊」というスイッチを、僕はこの斧で押したのだ。

刃についた樹液を親指でそっと拭い、ヒッコリーの柄を握り直す。僕は深く息を吐き、次の丸太を薪割台に立てた。まだ、語るべき記憶(もくめ)はたくさんある。この静かな対話は、夜が来るまで続く。


物語の舞台に在るもの

眠る時間を叩き割る、鈍色の相棒。


Hultafors (ハルタホース) スカウト 斧 を探す

森で会おう。

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