黄色い牛革のグローブ。
手を通す。
最初は硬い。
指を曲げると、革の繊維が軋む音がする。
獣の匂いがする。
熱を拒絶するバリア
焚き火の薪を、素手で掴むことはできない。
熱いからだ。痛いからだ。
でも、G-1を嵌めれば、火の中にある薪さえ掴める。
熱が、遠く感じる。
完全に遮断されるわけじゃない。
「熱い」という情報は伝わってくるが、「痛み」という信号はカットされる。
これは、恐怖心を麻痺させる道具だ。
だからこそ、僕は火に近づける。
傷だらけの黄色
最初は鮮やかな黄色だった。
今はどうだ。
煤で黒ずみ、オイルで茶色く変色し、無数の傷が刻まれている。
ナイフで薪を割る時、誤ってグローブを掠めた跡。
熱い鍋を掴んで、少し焦げた跡。
そのすべてが、僕が「手を動かした」証拠だ。
綺麗なグローブなんて、書斎の飾りにもならない。
汚れて、傷ついて、初めてこれは「僕の手」になる。
育てるとは、馴染ませること
革は、正直だ。
使えば使うほど、僕の手の形を記憶する。
関節のシワ、指の太さ、握り方の癖。
最初は異物だった革が、いつの間にか皮膚の一部になる。
今では、目をつぶっていても、どちらが右でどちらが左かわかる。
手触りが、僕の手を知っているからだ。
守られているから、強く握れる
素手なら、躊躇する場面がある。
棘のある枝、熱いケトル、重い岩。
恐怖が、握力を弱める。
でも、G-1があれば、全力で握れる。
「守られている」という確信が、力を引き出す。
痛みを知らない手は、何も掴めない。
痛みを恐れない手だけが、何かを掴み取れる。
このグローブは、僕に勇気をくれるわけじゃない。
ただ、痛みを肩代わりしてくれるだけだ。
それだけで十分だ。
外した後の手は、いつもより白く、少し頼りなく見える。
革の匂いが、指先に残る。
それが、僕が今日一日、生きていた証だ。
森で会おう。