スイッチ一つで、世界は昼間になる。
LEDランタンは便利だ。白い光は、すべてを暴く。
でも、森の夜に、その白さは暴力的すぎる。
僕は、Feuerhand 276に火を灯す。
ドイツ製の、古臭いオイルランタン。
灯油の匂いという儀式
タンクのキャップを開ける。
ツンとした灯油の匂いが鼻を突く。
不快だと思う人もいるだろう。
でも僕には、これが「スイッチ」だ。
日常から非日常へ。文明から野蛮へ。
境界線を越えるための匂い。
芯に火を近づける。
ボッ、と小さな音を立てて、オレンジ色の炎が生まれる。
ホヤ(ガラス)を下ろす。
炎は安定し、涙型になる。
揺れることの機能
Feuerhandの光は、弱い。
本を読むのがやっとの明るさだ。
しかも、風が吹けば揺れる。
でも、この「揺らぎ」がいい。
一定の明るさで照らし続けるLEDは、影を固定する。
揺れる炎は、影を踊らせる。
森の木々が、生き物のようにうごめく。
闇が、深くなったり浅くなったりする。
そのリズムを見ていると、自分の呼吸まで深くなる気がする。
手間という贅沢
芯が短くなれば、炎は小さくなる。
煤が出れば、ホヤを磨かなきゃいけない。
燃料がなくなれば、消える。
面倒だ。
でも、その面倒さが、僕をランタンに向き合わせる。
「調子はどうだ?」と語りかけるように、つまみを回す。
炎の大きさを調整する。
ただ置いておくだけの照明じゃない。
世話を焼くペットのような存在。
100年以上、形を変えていないという事実。
第一次世界大戦の時代から、嵐の中でも消えない灯りとして使われてきた歴史。
その重みが、薄い鉄板のボディに宿っている。
闇を消すのではなく、共存する
LEDは、闇を「排除」しようとする。
オイルランタンは、闇と「共存」する。
足元だけを照らし、その先にある深い闇を際立たせる。
見えない部分があるからこそ、人は想像する。
森の奥に何があるのか。
不完全な光。
だからこそ、美しい。
火を消す時、少し寂しくなる。
灯油の残り香と共に、僕はまた、眠りにつく。
See you in the forest.