言葉にならない思いは、何色だろう。
キーボードで打つ文字は、すべて黒だ。
#000000。
でも、心の中にある感情は、もっと複雑な色彩を帯びている。
だから僕は万年筆を使う。
そして、Pilot 色彩雫(iroshizuku)というインクを使う。
「月夜」「竹林」「冬将軍」。
日本の美しい情景から切り取られた名前。
ボトルの中に眠る液体は、ただのインクじゃない。
それは凝縮された「季節」だ。
Scene: コンバーターが吸い上げる音
万年筆のペン先をボトルに浸す。
コンバーターのつまみを回す。
「ジュッ」という小さな音と共に、インクが吸い上げられていく。
ガラス越しに見える液体の揺らぎ。
美しい。
書く前の、この準備時間が好きだ。
今日はどの色にしようか。
雨上がりなら「紫陽花(Ajisai)」。
落ち込んでいる夜は「深海(Shin-kai)」。
気分に合わせて色を選ぶ行為は、自分の心と向き合うカウンセリングに似ている。
Feeling: 紙の上の濃淡
書き出した瞬間、色が滲む。
文字の跳ねや払いに現れる濃淡(Shading)。
インク溜まりの深い色と、走った線の淡い色。
そのグラデーションは、二度と同じものにはならない。
夕焼け空が一瞬で変わっていくように、書いた文字も乾くにつれて表情を変える。
デジタルフォントにはない、揺らぎ。
整っていないことの美しさ。
下手な字でも、このインクで書くと味わい深く見えるから不思議だ。
言葉に乗せきれなかったニュアンスを、色が補完してくれる。
Partner: 手書きという贅沢
手紙を書く。
日記を書く。
誰かに見せるためじゃなく、自分のために残す文字。
色彩雫は、その時間を豊かに彩ってくれる。
ボトルを並べて眺めるだけでも、心が満たされる。
効率化を叫ぶ世界への、ささやかな抵抗。
手間をかけ、手を汚し、色を楽しむ。
そんなアナログな時間が、僕の心を中和(Neutralize)してくれる。
インク沼という深い森へ、ようこそ。
森で会おう。