掃除機は、空気を切り裂く音がする。
モーターの唸り声。
排気の匂い。
便利だけど、あれは「戦い」の道具だ。
僕は朝一番に戦いたくない。
だから、棕櫚(シュロ)箒とはりみを使う。
植物の繊維を束ねただけの箒。
紙に柿渋を塗っただけのちりとり。
電気もいらない。
音もしない。
「サッ、サッ」という、枯れ葉を踏むような乾いた音が部屋に響くだけ。
そのリズムが、まだ眠っている身体をゆっくりと起こしてくれる。
Scene: 埃(ほこり)と対話する
掃除機のように、何もかも吸い込むわけじゃない。
隅っこの埃を、優しく撫でて集める。
棕櫚の油分が、床に艶を与えていく。
掃除をするということは、床を育てるということだと気づく。
目に見えない小さなゴミを見つけると、少し嬉しくなる。
「こんなところに隠れていたのか」と。
汚いものを排除する作業ではない。
場を整え、清める儀式(Ritual)。
窓から差し込む朝日の中で、埃がキラキラと舞うのを見るのが好きだ。
Feeling: 紙の強さ、軽さ
はりみは「紙」だ。
でも、プラスチックよりずっと強い。
竹の枠組みと、柿渋のコーティング。
静電気が起きないから、集めたゴミがサラッと落ちる。
この機能美。
昔の人は、自然素材の特性を本当によく知っていた。
手に持った時の軽さは、羽のようだ。
壁に掛けてあっても美しい。
道具であることを隠そうとしない。
そこに在るだけで、部屋の空気が少し凛とする。
Root: 土に還る道具
もし壊れても、これらはすべて土に還る。
プラスチックの破片として、数千年も海を漂うことはない。
自然から借りて、自然に返す。
そのサイクルの中に、僕の暮らしもある。
掃除を終えて、箒を壁にかける。
部屋は静かだ。
でも、さっきより少しだけ、空気が澄んでいる気がする。
森で会おう。