鉄は、育てるものだ。
新品の鋳鉄のフライパンを手に入れた日。
僕はそれを、ただの調理器具だとは思わなかった。
これは、「相棒」だ。
一緒に時間を過ごし、互いに変化していく存在。
鉄は、使うほどに育つ。
そして、使う人間も育てられる。
Scene: 油を塗り込む夜
最初にやることは、シーズニングだ。
鉄の表面に、薄く油を塗り込む。
火にかけ、煙が上がるまで熱する。
冷ます。
また塗る。
この作業を、何度も繰り返す。
時間がかかる。
面倒だと思う人もいるだろう。
でも、僕はこの時間が好きだ。
「これから、よろしく」と、道具に語りかけるような儀式。
油が染み込むたび、鉄の表情が変わっていく。
鈍い灰色が、少しずつ黒く、艶やかになっていく。
Feeling: 焦げ付きは、記録だ。
使い始めの頃は、何度も焦げ付かせた。
目玉焼きが、フライパンにへばりつく。
悔しくて、金属のヘラでガリガリと削った。
でも、そんな失敗も、鉄には「記録」として残る。
傷は消えない。
代わりに、その傷の上に油が積層し、新しい皮膜ができる。
やがて、フライパンは「育つ」。
何も敷かなくても、卵が滑るようになる。
テフロン加工は、いつか剥がれる。
でも、鉄の皮膜は、使うほどに強くなる。
これは、「完成品」ではなく、「未完成」を共に仕上げていく道具だ。
Root: 時間を食べる。
鉄のフライパンで焼いた肉には、独特の香ばしさがある。
それは、これまで調理してきた無数の食材の「記憶」が、鉄に焼き付いているからだと思う。
朝のベーコン、夜の野菜炒め、休日のステーキ。
全部が、少しずつ鉄に染み込んでいく。
僕が食べているのは、肉だけじゃない。
このフライパンと過ごした「時間」も、一緒に食べている。
道具を使うことは、時間を積み重ねることだ。
そして、その時間は、味になる。
森で会おう。